AIが26秒で11社に侵入|「小さいから」は消えた
複合機の印刷管理にPaperCut NG/MFを使っていない会社は、この件で何もしなくて構いません。ただし「外から届く古いソフト」の話として1つだけ持ち帰ってください。
今回の攻撃で、相手を選んだのは人ではありません。インターネットの検索で見つかった順に、AIが勝手に入りました。26秒で11の組織です。会社の規模は見ていません。
今日やるのは、社内に外から届くソフトが何かを、販売店か担当者に聞くことです。全部の棚卸しは要りません。「外から届くもの」だけで足ります。
「うちは小さいから狙われない」。攻撃する側が人で、相手を選んで時間をかけるなら、この前提はそれなりに成り立っていました。
9月9日に公表された事件で、その前提の置き場所がなくなりました。相手を選んだのはAIです。
何が起きたか
セキュリティ企業のGreyNoiseが9月9日、8月31日に始まった攻撃の分析を公表しました。ロシア語圏とみられる攻撃者が、印刷管理ソフト「PaperCut NG/MF」の2つの脆弱性(CVE-2026-81578とCVE-2026-82078)を、AIを使って開発・検証・実行したものです。攻撃には数百体のAIエージェントが使われ、OpenAIのCodexを土台にDeepSeekのモデルを動かしていました。少なくとも440台のPaperCutサーバーが侵入され、被害組織は48か国で395に及びます(GreyNoise「Agents Gone Wild: An AI-Orchestrated Global Campaign Against PaperCut NG/MF」)。
PaperCut側は8月27日に緊急の告知を出し、9月10日に修正済みの正式版(26.0.5/25.0.13/24.1.10)を公開しています(PaperCut「URGENT Security Advisory」)。
中小企業にとって何が変わるか
PaperCutは、複合機の印刷・コピー・スキャンを誰がどれだけ使ったかを記録し、制限や課金をするソフトです。複合機と一緒に販売店が入れていて、会社側は名前を知らないことがあります。
まず線を引きます。PaperCut NG/MFを使っていない会社は、この脆弱性そのものについては何もしなくて構いません。同社のMobility PrintやPrint Deploy、PCに入れるクライアント側のソフトは対象外だと告知にあります。
変わったのは、この製品の話ではありません。「相手を選ぶ」工程から人が消えたことです。
相手を選んだのは人ではありません
GreyNoiseの分析には、攻撃者の手順が書かれています。まず自分の環境に脆弱なPaperCutと社内サーバーの模型を作り、AIに攻撃手順を作らせて試します。並行して、インターネット全体を検索するサービスで「外から届くPaperCut」の一覧を作ります。手順ができたら、一覧の上から順に、数百体のAIが入っていきます。
空の作業場から実際の被害者に入るまでが4時間弱、本番を始めてからは26秒で11の組織に入ったと書かれています。
ここに「どの会社を狙うか」を考える人はいません。一覧に載っていたかどうかだけです。一覧に載る条件は、会社の大きさでも売上でもなく、外から届く場所に古いPaperCutがあったことです。
被害の内訳を見ると、教育機関が204で最多ですが、小売・専門サービスが38、不動産・宿泊が29、製造・エネルギーが13、法律事務所が8と、規模を選んでいません。日本の組織も2つ含まれています。
うちは当てはまるのか
| いまの状態 | 今日の見立て |
|---|---|
| 複合機の印刷管理にPaperCut NG/MFを使っている | ここが本体です。バージョンが26.0.5/25.0.13/24.1.10のいずれかに上がっているかを、販売店か担当者に今日聞いてください |
| PaperCutを使っているが、バージョン23以前 | 修正版がありません。24以降への更新が要ります。それまでは、サーバーの管理画面に外から届かないよう制限してください |
| 使っているかどうか分からない | 複合機を入れた販売店に「印刷管理のソフトは何か」を聞いてください。1本のメールで済みます |
| PaperCutは使っていない | この脆弱性については何もしなくて構いません。ただし「外から届く古いソフト」は他にもあります。次の項を読んでください |
よくある誤解:うちのサーバーは外に出していない
「社内でしか使っていないから関係ない」という判断が起きやすいところです。
2つ、言っておきます。1つは、外に出しているつもりが無くても、外から届く設定になっていることがある点です。外出先からの印刷のために、いつか誰かが開けた設定が残っている形です。開けた本人が辞めていれば、把握している人はいません。
もう1つは、PaperCutが今回の告知で、インターネットに出ているかどうかに関わらず、すべての顧客に更新を勧めると書いている点です。社内からしか届かないサーバーでも、社内のPCが1台やられれば、そこから届きます。GreyNoiseの記録では、PaperCutのサーバーから会社全体の管理者権限まで取られた組織が12あります。過去のPaperCut侵入は恐喝につながった例があるとも書かれています。
変わったのは「守り方」ではなく「順番」です
新しいセキュリティ製品を買う話ではありません。GreyNoiseは、基本的な対策は今回のAI攻撃にも効いたとしています。少なくとも1件では、Webアプリケーションファイアウォールが攻撃を止めました。
変わったのは、「後で直す」が通用する時間です。人が攻めてくるなら、古いソフトがあっても見つかるまでに時間がありました。AIが一覧の上から順に入るなら、一覧に載った瞬間に順番が来ます。修正版が出てから当てるまでの数週間が、そのまま入られる時間になります。
いま何をすべきか/何もしなくていいか
やることは、全社のセキュリティ点検ではありません。「外から届くソフトが何か」を1回だけ書き出すことです。
- 複合機の販売店に、印刷管理のソフト名とバージョンを聞く。PaperCut NG/MFなら、26.0.5/25.0.13/24.1.10に上がっているかまで聞きます。上がっていなければ更新を依頼します
- 社内にある「外から届くもの」を、担当者か保守業者に聞いて書き出す。VPN、リモートデスクトップ、NAS、勤怠や会計のサーバーなど、社外からつなぐために開けたものです。全部の棚卸しは要りません
- その一覧の「誰が更新するか」を1行ずつ決める。販売店任せなら、更新の通知が来る契約かどうかを確かめます。誰も担当していない行があれば、それが今回のPaperCutと同じ形です
- 使っていないものが一覧にあれば、更新ではなく止めます。守る理由がありません
やらなくていいことも書いておきます。AIの利用をやめる必要はありません。攻撃側がAIを使ったことと、自社がAIを使うことは別の話です。全社のセキュリティ診断を今日発注する必要もありません。外から届くものが分からないうちは、診断の範囲も決まりません。先に一覧です。
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