ツールが定着しない|直すか捨てるかの決め方
使われていない理由を1つ特定できるなら直す。できないなら畳んでください。
直すと決めたら、全社をやめて1業務に戻し、30日で判定します。
やめると決めたら、解約より先にデータを出す。帳簿書類の保存義務は、解約しても消えません。
半年前に入れたツールが、いつのまにか開かれなくなっている。誰も文句は言っていません。ただ、静かに元のやり方に戻っている。
やめようと言い出す人もいません。決めた本人が「失敗でした」と言いにくいからです。そのまま、月額だけが引き落とされ続けます。
この状態を放置するのが、一番高くつきます。 直すのか、畳むのか。どちらでもいいので決めてください。その決め方の話をします。
その前に、本当に使われていないのかを1回だけ数える
「なんとなく使われていない気がする」では、直すことも捨てることもできません。
印象で判断すると、たいてい間違えます。実は1人だけ毎日使っていた、逆に「全員使っています」と報告が上がっているのに開くのは月末の1日だけ、ということが普通にあります。
数えるのは3つだけです
管理画面を開けば、たいてい10分で分かります。
| 見るもの | 何が分かるか |
|---|---|
| 直近30日でログインした人数 | 何人に届いているか |
| その人たちのログイン回数 | 日常に入っているか、たまに思い出しているだけか |
| 最後にデータが増えた日 | 業務がそこを通っているか |
3つ目が一番効きます。ログインだけされてデータが増えていないなら、それは「見に行っただけ」です。業務はそこを通っていません。
「使われていない」の中身は2種類あります
数えると、だいたいどちらかに分かれます。
- 誰も触っていない — 導入がそもそも成立していない
- 一部の人だけが触っている — 属人化。その人が辞めたら止まる
後者を「定着している」と数えている会社は多いです。1人だけが回している状態は、定着ではなく、次の停止が予約されている状態です。
運用の課題は「高い」と「使われない」に分かれて出てくる
多くの会社は、使われていないことよりも先に、高いことに気づきます。
中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」に、導入後の運用課題を聞いた項目があります。全国の中小企業10,000社に配布、有効回答1,668社、調査期間は2025年11月17日から12月12日です。
ITを導入した企業(n=1,630)の回答は、次のようになっています。
- ランニングコストが高い 47.7%
- 運用担当者の負荷が重い 33.1%
- 従業員による活用が進まない 28.8%
- 特になし 24.5%
- 期待していた効果が得られない 13.4%
出典:中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)
上の2つと3つ目は、現場では同じ1つの現象です
「ランニングコストが高い」と「従業員による活用が進まない」は、集計上は別々の選択肢です。しかし現場で起きていることは、たいてい1つです。使われていないものに、払い続けている。
使われていれば、同じ金額でも高いとは言われません。高いと感じるのは、払った額に対して減ったものが見えないときです。
「効果が得られない」と自覚している会社は少数です
注目したいのは、「期待していた効果が得られない」が13.4%にとどまっている点です。
効果が出ていないと認識している会社は、実は多くありません。多くは「高い」「使われない」という症状の形で認識しています。原因にたどり着く前にコストの話として処理され、判断が先送りされます。
全社に広げた会社ほど、使われていない
同じ調査で、AIを「全社的に導入している」と答えた企業では、「従業員による活用が進まない」が40.4%でした。「一部の業務で導入している」企業では36.0%です。
ただし全社導入と答えたのは57社なので、この数字は幅を持って見る必要があります。それでも、広く入れたほうが定着しやすいという結果にはなっていません。
理由は想像がつきます。全社に配れば、使う理由が無い人まで含まれるからです。使う理由が無い人は使いません。意識の問題ではなく、単に必要が無いだけです。
直すか、捨てるかは1つの問いで決まります
「そのツールで無くすと決めた作業は、いまも無くしたいか」。ここだけで決まります。
ツールの機能を比べ直す必要はありません。他社の使い方も関係ありません。聞くべきなのは、導入したときに減らそうとしていた作業が、いまも減らしたい作業かどうかだけです。
捨てる側に回る条件
次のどれかに当てはまるなら、畳んでいいです。
- 減らそうとしていた作業が、もう発生していない — 業務・取引先・担当者が変わった
- 何を減らすつもりだったか、誰も言えない — 目的が「効率化」で止まっていた場合です
- 使われない理由を特定できない — 分からないまま再開しても、同じ結果になります
3つ目が一番大事です。理由が分からないまま「今度こそ」と号令をかけるのは、時間とお金の両方を失う一番確実な方法です。
原因の見当をつけたい場合は、SaaSが使われない3つの理由で3つの型に整理しています。どれにも当てはまらないなら、捨てる判断で構いません。
直す側に回る条件
逆に、次の2つが両方そろっているなら、直す価値があります。
- 減らしたい作業が、いまも毎週発生している
- 使われていない理由を、1つ具体的に言える
「入力が二重になっていた」「前のエクセルが生きていた」「使うのが現場で、得をするのが管理側だった」。この粒度で言えるなら、直せます。
捨てるのは失敗ではありません
ここが一番伝えたいところです。
決めた人が「やめましょう」と言い出せず、使われていないツールが数年そのままになっている会社を、いくつも見ています。続けていること自体が失敗の証拠になっているのに、やめる決定だけが失敗に見えてしまう。
判定するのは、ツールが良かったかどうかではありません。何が減ったかだけです。減っていないなら、畳む。それは判断であって、失敗ではありません。
直すと決めたら、まず範囲を戻す
もう一度同じ広さで再開すると、同じ場所で折れます。
全社をやめて、1業務に戻す
全社で使われていないものを全社で立て直すのは、最初の導入より難しいです。一度失敗した記憶が現場に残っているからです。
戻す先は1業務、できれば1人か2人。その人たちが頼まれなくても使う状態を作ってから、広げます。順番の考え方はAI導入の進め方と同じです。
期限を30日に切る
再開にも判定日を先に決めます。判定日の無い再開は、ただの延命です。
30日あれば、毎週発生する作業なら4回通ります。4回通って定着しないものは、その後も定着しません。
直すのは1か所だけにする
使われなかった理由を3つ挙げて全部直そうとすると、また止まります。一番大きい1つだけを直し、他は放置してください。
1つ直して動き出せば、残りは後から直せます。動き出さないなら、残りを直しても同じです。
捨てると決めたときにやること
解約ボタンを先に押さないでください。順番があります。
畳む作業を軽く見て、あとで困る会社が多いところです。特に請求・受発注・経費まわりのツールは、解約したその日から困ります。
1. 解約より先に、データを出す
これが最優先です。
解約するとデータが見えなくなるサービスは多く、猶予期間があっても、過ぎれば消えます。契約が切れてから「あの請求書を見たい」と言っても、もう開けません。
そして、保存義務のほうは解約しても消えません。
国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和8年7月)問17は、電子取引データについて「それぞれの法律で定められた期間保存する必要があります」としています。法人の場合、帳簿・書類とも原則7年です(青色欠損金が生じた事業年度などは10年)。
同じ一問一答の問28では、クラウドサービスを利用している場合でも、保存場所で「電磁的記録をディスプレイの画面及び書面に、規則第2条第2項第2号に規定する状態で速やかに出力することができるとき」は、保存場所に保存されているものとして扱うとされています。
裏を返せば、解約してその画面が開けなくなれば、速やかに出力できる状態ではなくなります。クラウドに置いたままでよかったのは、そこが開くあいだだけです。
出典:電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月・国税庁)
どこまで手元に残すかは、扱っている書類によって変わります。請求・受発注・経費のツールを畳むときは、解約の前に顧問税理士へ一度確認してください。押してからでは戻せません。
直すべきか畳むべきかの切り分けだけでも、ご相談ください。いまの使われ方を伺うところから始めます。
2. 契約の更新日を確認する
年額契約には自動更新の条項が入っていることがあり、解約の申し出に期限が設けられている場合もあります。
契約書の更新に関する条項は、解約を決めたその日に読んでください。「来月やめよう」と思っていたら更新日を過ぎていた、という形で1年分を払うことになります。
同時に、そのツールに紐づいているものも確認します。連携している他のサービス、そのツールから飛んでいる自動通知、外部に公開しているフォームのURL。止めた瞬間に、別のところが止まることがあります。
3. なぜ捨てたかを、1行だけ残す
畳むときに必ずやってほしいのが、これです。
「〇〇を減らすために入れたが、△△だったので使われなかった」
1行で構いません。どこかに残してください。
これが無いと、2年後に同じツールをもう一度検討します。担当者が代われば、なおさらです。営業を受けて「よさそうですね」となり、同じ理由で同じように使われなくなります。
しかもこの1行には、何を減らしたいのかが書かれています。次に選ぶときの条件が、もう1行できているということです。
今日からやること
使われていないツールが思い当たるなら、上から順に進めてください。
| # | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 管理画面で直近30日のログイン人数・回数・最終更新日を見る | 10分 |
| 2 | 「このツールで何を無くすつもりだったか」を1行で書く | 5分 |
| 3 | その作業が、いまも毎週発生しているかを確認する | 5分 |
| 4 | 発生していない、または理由が言えないなら、畳むと決める | — |
| 5 | 畳むなら、解約より先にデータを出す。契約の更新日を確認する | 60分 |
| 6 | 直すなら、対象を1業務に戻し、30日後の判定日をカレンダーに入れる | 5分 |
2番が書けないなら、そのツールは高い確率で畳む側です。何を無くすつもりだったか誰も言えないものを、立て直すことはできません。
よくある質問
使われていないツールを、とりあえず契約だけ残すのは駄目ですか
「いつか使うかもしれない」で残したものが、使われた例をあまり見ていません。 残すなら「いつ、誰が、何に使うか」を決めてください。決められないなら、それは残す理由ではなく、決めたくない理由です。畳んでも、必要になれば契約し直せます。
高いお金を払って入れたので、やめるのがもったいないです
すでに払った分は、続けても戻りません。判断すべきなのは、これから払う分に見合うかどうかです。もったいないという感覚は正常ですが、そのまま続けると、もったいない金額が毎月増えます。
複数のツールが使われていない状態です。どれから手をつけますか
金額が大きいものではなく、判断が早くつくものから畳んでください。 一番高いものは関係者が多く、決めるのに時間がかかります。小さいものを1つ畳んで、データの出し方と解約の手順を一度通しておくと、大きいものを畳むときに迷いません。
まとめ
定着しなかったツールに必要なのは、気合いではなく判断です。
- まず数える — ログイン人数・回数・最終更新日。印象で決めない
- 問いは1つ — 無くすと決めた作業を、いまも無くしたいか
- 直すなら範囲を戻す — 全社をやめて1業務。期限は30日。直すのは1か所だけ
- 畳むなら順番を守る — データを出す、契約の更新日を見る、理由を1行残す
畳むのは失敗ではありません。失敗なのは、使われていないと分かっていながら、決めないまま払い続けることです。
どこから手をつけるかを決める話は、業務改善は何から始めるかにまとめています。
使われていないツールの扱いに迷っている場合は、ご相談ください。 直すか畳むかの切り分けから、一緒に見ます。
どこから手をつけるか分からない場合は、ご相談ください。いまのやり方を伺うところから始めます。ご相談とお見積りに費用はいただきません。
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