業務棚卸のやり方|全部書き出さないで済ませる
全社の業務を全部書き出す棚卸は、人手の足りない会社では終わりません。終わっても、長すぎて使われません。
書き出すのは「週に1回以上くり返す仕事」だけです。1人あたり10〜15行で止めてください。
業務名のほかは、列は6つで足ります。頻度・1回の時間・判断の有無・転記の有無・入力元と出力先・止めたら困る人。この6列があれば、次に直す業務がそのまま決まります。
「まず業務の棚卸をしましょう」と言われ、シートを配った。1か月たっても半分しか埋まらない。埋まった分を開くと、部署ごとに書き方が違い、300行を超えていて、どこから見ればいいのか分からない。
棚卸そのものが目的になって、改善に進む前に息切れする。この記事は、そうならない棚卸のやり方だけを書きます。
なお、社長が1人で自分の作業を書き出すだけなら、この記事は要りません。業務改善は何から始めるかの末尾にある15分の手順で足ります。ここで扱うのは、複数の人から集めるときの棚卸です。
棚卸が終わらないのは、書く範囲が広すぎるから
棚卸が止まる原因は、社員のやる気ではありません。「全部書き出す」という設計そのものです。
大きい会社の棚卸は、専任の担当者が全部門を回り、業務量調査をかけ、数か月かけて全体像を作ります。それは専任を置けるから成立します。人手の足りない会社で同じ形を縮小して持ち込むと、書く側は本業の合間に書くことになり、集める側も本業の合間に集めることになります。中小企業でDXが進まない理由にも書いたとおり、棚卸が終わる前に日常業務に押し戻されます。
そもそも棚卸で知りたいのは、業務の一覧ではありません。時間がどこに消えているかです。
中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した中小企業のAI等の利活用に係る実態調査では、AIを導入した目的として「業務効率化/作業時間の短縮」を挙げた企業が87.0%で、2位の「品質向上」を50ポイント以上引き離しています。求めているのは時間です。ところが、よくある棚卸表には業務名と担当者は並んでいても、1回にかかる時間と、月に何回あるかが入っていません。これでは、埋まったところで時間の話ができません。
もう1つ、範囲の問題があります。商工中金が2026年3月に公表した中小企業の生成AIの利用にかかる調査(有効回答3,892社)では、「直接部門の人手不足対応・業務効率化」を重大な経営課題と答えた企業が39.7%だったのに対し、「間接部門の人手不足対応・業務効率化」は15.3%でした。困っているのは現場のほうです。ところが棚卸のシートは、たいてい事務の席にだけ配られます。現場は書く時間がないから配れない、というのがその理由です。書く時間がない人にも書いてもらえる分量にしないと、時間が消えている場所がそもそも棚卸に入ってきません。
だから、範囲を絞ります。
書き出すのは「週1回以上くり返す仕事」だけ
書くのは、週に1回以上くり返している仕事だけです。1人あたり10〜15行で止めてください。
年に数回の仕事、突発の対応、その人にしかできない判断は、書かなくて構いません。理由は2つあります。
- 直しても効果が出るのが遅いから。 月末にしかない作業を直しても、次に効くのは1か月後です。改善は最初の数週間で「効いている」と感じられるかどうかで続くかが決まります
- 判断が絡む仕事は、最初に手をつける対象にならないから。 AIに任せていい仕事の見分け方に書いたとおり、判断基準を言葉にできない仕事は、任せる前に基準を作る工程が要ります。それは棚卸の次の段階です
「抜け漏れがあるのでは」と不安になりますが、心配は要りません。週1回以上ある仕事は、書き忘れても翌週に思い出します。書き足せばよいだけです。逆に、年1回の仕事は書き忘れると1年出てきませんが、それは今回直す対象ではないので、出てこなくて困りません。
書くのは本人。ただし1人で書かせない
集め方は、本人が書く形にしてください。聞き取りで作ると、聞く側の時間が人数分かかります。
ただし「シートを配って締切を伝える」だけにしないでください。それで埋まるなら、最初から困っていません。5分でいいので、横に座って一緒に書き始めてください。最初の3行が埋まれば、残りは本人が書けます。止まるのは、いつも最初の1行です。
書く場所は紙でも表計算でも構いません。ただし部署ごとに様式を変えないでください。列が違うと、あとで並べられません。
棚卸表の列は6つで足りる
列を増やすほど埋まりません。業務名のほかは、この6列に固定してください。
書式はこれだけです。そのまま写して使ってください。
| 業務名 | 頻度 | 1回の時間 | 判断 | 転記 | 入力元 → 出力先 | 止めたら困る人 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 請求書の発行 | 毎日 | 20分 | なし | あり | 受注メール → 販売管理 | 経理・取引先 |
| 入金の消込 | 毎日 | 30分 | 一部 | あり | 通帳 → 販売管理 | 経理 |
| 問い合わせの一次返信 | 毎日 | 15分 | 一部 | なし | 問い合わせフォーム → メール | 営業 |
| 日報の集計 | 毎日 | 10分 | なし | あり | 各自の日報 → 集計表 | 社長 |
| 見積書の下書き | 週2〜3回 | 40分 | あり | あり | 営業のメモ → 見積書 | 営業 |
| 勤怠の確認 | 週1回 | 60分 | 一部 | あり | 打刻 → 給与ソフト | 総務 |
(記入例です。業務名・時間は自社のものに置き換えてください)
なぜこの6列なのかを、列ごとに説明します。
頻度と1回の時間。 この2つを掛けると「週あたりの時間」になります。棚卸で本当に知りたいのはこの数字だけです。時間は正確でなくて構いません。「だいたい20分」で十分です。分単位で測ろうとした瞬間に、棚卸は止まります。
判断の有無。 「なし/一部/あり」の3段階で書きます。「なし」が多いほど、最初に直しやすい仕事です。「一部」は、たとえば「金額が合わないときだけ上司に聞く」のような例外があるもの。「あり」は、毎回中身を見て決めているものです。
転記の有無。 何かを見て、別の場所に打ち直しているか。転記がある仕事は、直したときの効果が分かりやすく、間違いも減ります。
入力元と出力先。 どこから来た情報を、どこへ渡しているか。これを書いておくと、あとでツールやAIを検討するときに「何と何をつなげばいいか」がそのまま分かります。ここが空欄だと、検討の段階で聞き直すことになります。
止めたら困る人。 その仕事が1日止まったとき、誰が困るか。誰も困らない仕事が出てきたら、直すのではなく、やめる候補です。
逆に、入れないほうがいい列もあります。「重要度」「難易度」「改善案」「担当者の意見」です。これらは書く人によって基準が違い、集めたあとに議論が始まります。棚卸の段階で議論を始めると終わりません。判断は集めたあとに、決める人がまとめてやります。
自社の棚卸表をどう作るか、6列に落とすところだけでもご相談ください。 いまある一覧をそのままお見せいただければ、そこから始められます。相談と見積りに費用はいただきません。
集めたら、集計しない。並べ替えるだけ
集めた表をきれいに整える必要はありません。「週あたりの時間」で並べ替えて、上から3つを見るだけです。
頻度と1回の時間を掛けて、週あたりの時間を出します。毎日20分なら週100分、週1回60分なら週60分。これで上から並べます。
上位に来た業務に、業務改善は何から始めるかの3条件を当ててください。毎日発生していて、判断が要らなくて、転記が絡んでいる。3つとも当てはまるものがあれば、それが最初の一手です。棚卸表の列は、この3条件がそのまま読めるように作ってあります。
ここで1つ、はっきり書いておきます。「棚卸をした」は、何も意味しません。「AIを導入した」が何も意味しないのと同じです。意味を持つのは、棚卸のあとで何が減ったかだけです。表はそのための道具で、成果物ではありません。
だから、表を育て続けないでください。整えたり更新し続けたりすると、それ自体が仕事になります。1回使って、1つ直したら、その表は捨てて構いません。3か月後にまた必要になったら、また10行書けばよいだけです。10行なら、書く側も嫌がりません。
同じ棚卸でも、会社ごとに上位に来る仕事は違います。請求書が上に来る会社もあれば、問い合わせの返信が上に来る会社もあります。他社の「よくある改善事例」から入るより、自社の上から3つを見るほうが、確実に自社の時間を減らせます。
今日からやること
上から順に。集める期間を入れても、2週間で終わります。
| # | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 上の6列を、紙か表計算にそのまま写す | 10分 |
| 2 | 書いてもらう人を決める。事務だけでなく、現場の1人を必ず入れる | 5分 |
| 3 | 「週1回以上くり返す仕事だけ、10〜15行まで」と伝える | 2分 |
| 4 | 1人ずつ、最初の3行を横で一緒に書く | 1人5分 |
| 5 | 1週間おいて、書き忘れを足してもらう | 1人5分 |
| 6 | 頻度×1回の時間で並べ替え、上から3つを見る | 15分 |
| 7 | 3条件(毎日・判断なし・転記あり)に当てはまるものを1つ選ぶ | 10分 |
4番を飛ばさないでください。シートを配るだけで埋まるなら、この記事を読んでいません。
よくある質問
全部書き出さないと、抜け漏れが出ませんか。
出ます。それで構いません。棚卸の目的は一覧を完成させることではなく、最初に直す1つを見つけることです。週1回以上ある仕事は、書き忘れても翌週に思い出せます。年1回の仕事は今回の対象ではないので、抜けていても困りません。完成させようとした瞬間に終わらなくなります。
社員が時間を短く書いてきます。
「時間がかかっている」と書くと評価に響く、と思われている可能性があります。棚卸の目的を「仕事を減らすため」と先に伝えてください。それでも短く書かれるなら、数字を詰めるより、あとで実際に横で1回見せてもらうほうが早くて正確です。
棚卸表のエクセル書式は無料で配っていますか。
この記事の表がそのまま書式です。業務名のほかは6列だけなので、表計算に写せば1分で終わります。列を足さないでください。書式を探すより、10行書き始めるほうが先に進みます。
棚卸のあと、どのツールやAIを入れるかはどう決めますか。
先に「何を任せるか」を決めてから、道具を探してください。任せてよい仕事の線引きはAIに任せていい仕事の見分け方に、選んだ1業務を90日でどう通すかはAI導入の進め方に書きました。棚卸表の「入力元 → 出力先」の列が、そのとき何をつなぐかの答えになります。
まとめ
業務棚卸が終わらないのは、書く側の問題ではなく、全部書き出そうとする設計の問題です。
- 書くのは「週1回以上くり返す仕事」だけ。 1人あたり10〜15行で止める
- 業務名のほかは6列に固定する。 頻度・1回の時間・判断・転記・入力元と出力先・止めたら困る人。重要度や改善案の列は入れない
- 配るだけにしない。 最初の3行は横で一緒に書く
- 集計しない。 週あたりの時間で並べ替え、上から3つに3条件を当てて1つ選ぶ
- 表は成果物ではない。 1つ直したら捨ててよい。3か月後にまた10行書けばいい
どこから手をつけるか分からない場合は、ご相談ください。いまのやり方を伺うところから始めます。ご相談とお見積りに費用はいただきません。
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