Excel管理から脱却する前に|やめない判断もある
「Excelをやめたい」の中身は4つに分かれます。同時に開けない・最新版が分からない・作った人しか触れない・転記が多い。このうちExcelを替えないと解決しないのは、最後の1つだけです。
使う人が2人以下、月に数回しか触らない、表の形がまだ毎月変わる。この条件に当てはまるExcelは、やめない方が安く済みます。
移すなら1ファイルずつ。最初の一歩は「Excelのまま置き場所を変える」で、それでも残った困りごとだけをツールに移します。
顧客台帳、受注表、シフト表。会社の大事な情報は、ほとんどExcelに入っています。誰かが開いていると「読み取り専用」になる。「最新」「最新2」「本当の最新」と同じ名前のファイルが3つある。マクロを組んだ人はもう辞めていて、誰も触れない。
「Excel管理からの脱却」と検索して出てくるのは、ほぼ全部ツールの会社が書いた「脱却しましょう」の記事です。この記事は逆から書きます。やめなくていいExcelはどれか。移すなら、何から、どの順番か。
「Excelをやめたい」の中身は4つに分かれる
困りごとを分けると、Excelそのものが原因のものは意外と少ないと分かります。
| 困りごと | 本当の原因 | Excelを替えると直るか |
|---|---|---|
| 同時に開けない・読み取り専用になる | ファイルの置き場所(自分のPC・共有フォルダ) | 替えなくても直る |
| どれが最新版か分からない | 保存のルールがない | 替えても直らない |
| 作った人しか触れない(関数・マクロ) | 属人化。仕組みではなく人の問題 | 替えても再発する |
| 別の表や紙からの転記が多い | 入力の入口がバラバラ | ここだけ、替える意味がある |
1つ目の「同時に開けない」は、多くの人が「Excelだから仕方ない」と思っています。これはもう古い前提です。Microsoftの公式ヘルプによると、Microsoft 365版のExcelでは、ファイルをOneDriveかSharePointに置けば、複数人が同時に同じブックを編集する「共同編集」が使えます。条件は、形式が.xlsx・.xlsm・.xlsbで、参加者全員がMicrosoft 365のExcelを使っていることです(Excel ブックの共同編集を使用して同時に共同作業する)。
昔の「ブックの共有」機能の、表もグラフも作れなくなる印象が残っている人もいるはずです。Microsoft自身がこの機能を「古い共有方法」と書き、共同編集への切り替えを勧めています(共有ブック機能について)。「同時に開けない」は、Excelをやめる理由ではなく、置き場所を変える理由です。
2つ目の「最新版が分からない」は、ツールを替えても直りません。移した先で「ツールの中の一覧」と「誰かが手元に落としたExcel」の二重管理が始まります。原因はファイル形式ではなく、「正本はここ、手元の複製は捨てる」というルールが無いことです。
3つ目の「作った人しか触れない」も同じです。ツールに移しても、「そのツールの設定をした人しか触れない」に形を変えるだけです。属人化はExcelの問題ではなく、業務の中身を1人の頭の中に置いたままにした問題です。
4つ目の「転記が多い」だけが、Excelを替える価値のある困りごとです。紙の注文書をExcelに打ち、それを見ながら請求ソフトに打ち直す。この構造は入力の入口を1つにしない限り消えず、それはExcelの得意な仕事ではありません。
やめない方がいいExcelの条件
使う人が少なく、触る頻度が低く、表の形がまだ固まっていないなら、Excelのままの方が安く済みます。
脱却を勧める記事が書かないのは、移すコストの方です。データを移す手間、新しい画面に慣れる時間、「前のExcelでできた並べ替えができない」という不満に答え続ける時間。人手の足りない会社では、この時間の方がツールの月額より高くつきます。次のどれかに当てはまるExcelは、やめないことをお勧めします。
- 使う人が2人以下。同時編集も版の管理も、2人なら声をかければ済みます
- 触るのが月に数回。締めにだけ開く集計表をツールに移しても、ログインの手間が増えるだけです
- 表の形がまだ毎月変わる。列が増減しているうちは業務が固まっていません。固まる前に移すと、ツール側の設定変更に追われます
- 他のどこにも繋がっていない。転記の元でも先でもない表は、Excelのままで困りません
- 入力している本人が、そのExcelを気に入っている。軽く見られがちですが、いちばん大事な条件です
最後の条件を補足します。SaaSが使われない3つの理由で書いたとおり、ツールが使われなくなる最大の原因は「入力する人と得をする人が違う」構造です。担当者が自分で育てたExcelは、入力する人と得をする人が同じです。それを「会社として管理したいから」という理由で、担当者にとって何も楽にならないツールに移すと、入力の質が落ちます。いちばん動いている仕組みを、管理する側の都合で壊すことになります。
大きい会社は「全社で統一する」で押し切れます。情報システム部門があり、移行の期間も人も確保できるからです。人手の足りない会社に同じやり方は持ち込めません。1つのExcelを移す間、その業務は誰かが片手で回すことになります。だから、移す価値のあるExcelだけを選んで1つずつやります。
移すと決めたら、Excelのまま置き場所を変えるところから
いちばん地味で、いちばん失敗しない最初の一歩は「ツールを入れる」ではなく「ファイルをクラウドに置く」です。
移すと決めたExcelには3つの段階があります。飛ばさず、上から順に試します。
| 段階 | やること | 消える困りごと |
|---|---|---|
| 1. 置き場所を変える | OneDriveかSharePointに置き、共同編集をオンにする。共有フォルダの複製は消す | 同時に開けない・最新版が分からない |
| 2. 入口だけ変える | 入力をフォーム(Microsoft FormsやGoogleフォーム)にして、結果を表に流し込む。表はExcelのまま | 手入力のミス・入力する人の負担 |
| 3. 台帳をツールに移す | 段階2まで済ませても転記が残る表だけ、台帳ツールに移す | 表と表の間の転記 |
段階1は、普通のやり方です。総務省の令和7年通信利用動向調査(常用雇用者100人以上の企業が対象、有効回答2,489社)では、クラウドサービスを一部でも利用している企業は83.5%で、利用しているサービスの内容は「ファイル保管・データ共有」が73.3%と最も高くなっています。業務システムより先に、まずファイルの置き場所。100人以上の会社でも、それが最も多い使い方です。中小企業を対象にした調査ではありませんが、この順番は人手が少ない会社ほど効きます。
段階2は見落とされがちです。困りごとが「入力」にあるなら、表を替える必要はありません。現場の人がスマホのフォームから入力し、結果が自動でExcelに溜まる。関数やマクロは溜まった表の上でそのまま動きます。
段階3まで進むExcelは多くありません。ここで初めて台帳ツールや専用ソフトの話になります。選ぶ順番は、業務改善は何から始めるか|最初に選ぶ3つの条件で書いた「毎日発生・判断が要らない・転記が絡む」の3つが重なる表からです。毎日触る表なら、効果が翌日に分かります。
移した後、元のExcelは読み取り専用にして3か月残します。「やっぱりあの列が要る」が必ず出るからです。移した後で困りごとが増えたなら、ツールが定着しない|直すか捨てるかの決め方の基準で戻す判断もしてください。戻すのは失敗ではなく、段階1で止まった方がよかったExcelだったと分かっただけです。
どのExcelが段階1で済み、どれが段階3まで要るのか。表の一覧を見せていただければ、その仕分けだけでもご相談ください。相談と見積りに費用はいただきません。
「脱却した」は何も意味しない。減った転記だけが意味を持つ
Excelをやめたかどうかではなく、探す時間と打ち直す回数が減ったかどうかで判断します。
ツールに移した会社でよく起きるのは、ツールの中の一覧を月末に結局Excelへ書き出して集計している、現場が以前のExcelの複製を手元に残している、という状態です。「導入した」という事実は残り、減ったものが無い。見るべきものは3つだけです。
- 探す時間。「最新はどれか」を聞く回数
- 打ち直す回数。同じ内容を2か所に入力する仕事
- 待つ時間。「誰かが開いているので待つ」
この3つが減っていれば、Excelのままでも移した後でも正解です。ツールに移したのに減っていなければ、それは脱却ではなく引っ越しです。
もう1つ。生成AIに表を読ませて集計や下書きをさせる場面が増えていますが、AIにとってExcelは扱いにくい形式ではありません。1シートに1つの表、1行目が見出し、セルの結合なし、と整っていればそのまま渡せます。脱却しなくても、整えるだけでAIの入口には立てます。
今日からやること
| 順番 | やること | 目安 |
|---|---|---|
| 1 | 2人以上が週1回以上触るExcelを書き出す | 30分 |
| 2 | 困りごとを4つ(同時・最新版・属人・転記)のどれかに分類する | 30分 |
| 3 | 「同時」「最新版」だけの表は、OneDriveかSharePointに置いて共同編集をオンにする | 1表あたり半日 |
| 4 | 「転記」の表のうち毎日触るものを1つ選び、フォーム入力に置き換えられないか試す | 1週間 |
| 5 | 1か月後、探す時間・打ち直す回数・待つ時間が減ったかを担当者に聞く | 15分 |
4番の表だけが、台帳ツールの検討に進む候補です。
よくある質問
Excelからの脱却は、何に移行するのが正解ですか。
決まった正解はありません。困りごとが「同時に開けない」「最新版が分からない」なら、移行先はツールではなくOneDriveやSharePointです。「転記が多い」なら、まず入力をフォームにして、残る転記だけを台帳ツールに移します。
Excelのマクロが属人化しています。マクロから脱却すべきですか。
マクロを消すより先に、そのマクロが「何を、何のためにやっているか」を日本語で書き出してください。書き出せれば、Excelのままでもツールに移してもAIに任せてもできます。書き出せないまま移すと、今度はそのツールの設定が属人化します。
現場が「Excelの方がいい」と言って新しいツールを使いません。
現場が正しい場合が多いです。移す理由が「会社として管理したいから」だけなら、使われなくなります。移すなら、担当者の困りごとが1つ減る形にしてください。減らないなら、そのExcelは移さなくていいものです。
まとめ
困りごとの中身を4つに分けると、Excelを替えないと解決しないのは「転記」だけです。「同時に開けない」「最新版が分からない」は置き場所とルールの問題、「作った人しか触れない」はツールを替えても再発する問題です。
使う人が2人以下、月に数回しか触らない、表の形がまだ変わる。そのExcelはやめない方が安く済みます。移すと決めた表は1つずつ。まずExcelのまま置き場所をクラウドに変え、次に入力の入口だけをフォームにし、それでも転記が残る表だけを台帳ツールに移します。見るのは「脱却したか」ではなく、探す時間・打ち直す回数・待つ時間が減ったか。それだけです。
どこから手をつけるか分からない場合は、ご相談ください。いまのやり方を伺うところから始めます。ご相談とお見積りに費用はいただきません。
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