RPAが使えない|止まるロボットを残すか、やめるか決める順番
RPAが使えないのは、ツールが悪いからでも、担当者の腕が足りないからでもありません。ロボットは画面の部品を目印に動くので、画面が変わると止まります。そして、作った人と止まって困る人が違います。
まず今あるロボットを1本ずつ書き出し、止まったときに誰が気づき、誰が直すかを確かめます。
直す人がいないロボットはやめ、残すロボットだけを止まっても困らない形に直します。
数年前にRPAを入れた。最初は、毎朝の受注データの取り込みや、請求書の転記がロボットで回るようになって、みんな喜んだ。ところが、ある朝ロボットが止まっていた。原因を調べると、使っている業務システムの画面が更新で少し変わっていた。作った担当者はもう別の部署にいて、直し方が分からない。結局、その作業はまた手でやっている。残っているのは、毎年の利用料と、誰も中身を知らないロボットだけです。
この記事は、RPAツールの比較や、新しいツールへの乗り換えの話ではありません。今あるロボットがなぜ止まるのかと、残すか、やめるかをどう決めるかを書きます。
RPAが止まるのは、ロボットが画面を目印に動いているから
ロボットは、人と同じように画面の部品を探して押しています。画面が変われば、目印を見失って止まります。
RPAは「人がパソコンでやっている操作を、そのまま覚えて繰り返す」道具です。Microsoftの公式ドキュメント「デスクトップ フローの概要」には、Power Automate のデスクトップ フローは、アプリケーションの UI 要素、画像、または座標を使ってコンピューターと対話できると書かれています。つまり、ボタンや入力欄といった画面の部品、画面の見た目、画面上の位置を手がかりに操作しています。
画面の部品には「セレクター」という目印が付いている
もう少し詳しく見ると、ロボットは画面の部品を「セレクター」という目印で探しています。Microsoftの「UI 要素を使用して自動化する」によると、セレクターは、画面の部品の階層と、その部品を他と区別する属性でできています。
人なら、ボタンの位置が少しずれても迷わず押せます。ロボットは、覚えた目印と合わなくなった時点で、その部品を見つけられません。業務システムやブラウザの更新など、人には気にならない変化で止まります。これは特定の製品の欠点ではなく、画面を操作する仕組みの性質です。
作った人と、止まって困る人が違う
止まること自体より厄介なのは、直す人がいないことです。
ロボットを作るのは、RPAに詳しい一人の担当者か、導入を手伝った外部の会社です。一方、ロボットが止まって困るのは、その作業を毎日やっていた現場の人です。現場の人は、ロボットの中身を知りません。作った人は、もう別の仕事をしています。
ロボットが動いている間、得をしているのは現場です。でも、止まったときの面倒は、作った人に戻ります。作った人にとっては、作り終えたロボットの手入れは、本業の外にある仕事です。ここが噛み合わないので、止まるたびに「とりあえず手でやる」が増えていきます。
止まったことに、誰も気づかないこともある
もう一つ危ないのは、止まったことが分からない場合です。ロボットが途中で止まり、半分だけ取り込まれたデータが残る。翌日の集計で数字が合わず、初めて気づく。こうなると、ロボットがある分だけ確認の手間が増えます。
まず、今あるロボットを1本ずつ書き出す
「RPAが使えない」と全体で判断する前に、ロボットを1本ずつ見ます。使えるロボットと使えないロボットは、たいてい混ざっています。
社内のRPAが「使えない」と言われるとき、全部のロボットが止まっているわけではありません。毎日問題なく動いているものと、止まってばかりのものが混ざっています。全体で「RPAはやめよう」と決める前に、1本ずつ分けます。
書き出すのは、次の五つです。
- 何をしているか:どのシステムから、どこへ、何を写しているか
- 誰が作ったか:社内の誰か、外部の会社か。その人は今も連絡がつくか
- どれくらいの頻度で動くか:毎日、毎週、毎月
- 止まったら誰が気づくか:気づく人が決まっているか。気づく仕組みがあるか
- 止まったら誰が直すか:直せる人が社内にいるか
業務の棚卸しのやり方は、業務棚卸のやり方に書きました。ロボットの棚卸しも同じ考え方で、一覧にするだけで判断がつくことが多くあります。
三つに分ける
書き出したら、ロボットを三つに分けます。
- 残す:毎日か毎週動き、止まったら気づく人と直す人がいる
- 直してから残す:よく動くが、止まったときに気づく人か直す人が決まっていない
- やめる:めったに動かない、作った人に連絡がつかず直せる人もいない、または元の作業そのものが要らなくなっている
「やめる」が出ても失敗ではありません。止まるたびに手でやり直すより、現場は楽になります。
残すロボットは「止まっても困らない形」に直す
止まらないロボットは作れません。止まったときに、すぐ気づいて、すぐ戻せる形にします。
残すと決めたロボットには、次の三つを足します。
目印を一つに頼らない
Power Automate では、一つの画面の部品に複数のセレクターを作れます。Microsoftの「UI 要素を使用して自動化する」によると、セレクターが失敗するたびに、定義された順序で次のセレクターが使われます。また、部品に書かれた文字をもとにしたセレクター(テキストに基づくキャプチャ)は、画面の構造が将来変わっても対応しやすいと説明されています。
よく止まるロボットは、目印の付け方を見直すだけで止まりにくくなることがあります。これは作った人か外部の会社に頼む作業で、現場の人が覚える必要はありません。
止まったら知らせが届くようにする
止まったことに気づかないのが一番危ない状態です。ロボットが止まったら、決めた人にメールかチャットで知らせが届くようにします。知らせを受ける人は、ロボットを直せる人でなくてかまいません。「今日はロボットが止まったので手でやる」と判断できる人であれば足ります。
手でやる手順を残しておく
ロボットが止まった日に、その作業を手でやる手順を1枚にしておきます。ロボットに任せている間に、手でのやり方を誰も覚えていない状態になりがちです。手順が残っていれば、止まった日も仕事は止まりません。マクロについて同じことを書いたのが、Excelマクロが属人化したらです。ロボットも、中身を言葉にして残す点は同じです。
大きい会社のやり方は持ち込まない
大きな会社では、RPAの推進チームを置き、ロボットを全社で管理する仕組みを作る進め方もあります。人の足りない会社で、それをそのまま真似ることはできません。兼務の管理担当を置いても、本業に押されて止まります。
先に決めるのは、残すロボット1本ごとに「止まったら誰に知らせが届き、その日は誰が手でやるか」です。それだけ決まっていれば、管理の仕組みが無くても回ります。
「うちのロボット、残すべきかやめるべきか」から、ご相談ください。今あるロボットの一覧を一緒に見て、残すもの、直すもの、やめるものを分けるところから始めます。
やめたあとの作業は、RPAでなくてよいことが多い
ロボットをやめた作業は、そもそも要るのか、取り込み機能で足りないかを先に確かめます。
ロボットをやめると決めた作業を、別のRPAツールで作り直す前に、一度立ち止まってください。RPAで画面を操作していた作業の中には、システムのCSV取り込みや、Excelの更新機能で済むものが混ざっています。画面を操作しなければ、画面が変わって止まることもありません。
写す先そのものをやめられる転記も多くあります。転記を消す順番は転記作業の無駄をなくすに、毎月の同じ作業を減らす順番は毎月同じExcel作業を減らすに書きました。「RPAを入れた」「ロボットが何本ある」は、それだけでは何も意味しません。意味を持つのは、手でやる作業が何本減ったかだけです。
今日からやること
| やること | 目安 | ポイント |
|---|---|---|
| 社内で動いているロボットを全部書き出す | 30分 | RPAツールの一覧画面から拾う |
| 1本ずつ、何をしているかと、誰が作ったかを書く | 1本5分 | 作った人に連絡がつくかも書く |
| 1本ずつ、止まったら誰が気づき、誰が直すかを書く | 1本5分 | 空欄になるロボットが要注意 |
| 残す・直してから残す・やめる、の三つに分ける | 20分 | 全体で判断せず1本ずつ |
| 残すロボットに、止まったときの知らせ先を決める | 1本10分 | 直せる人でなくてよい |
| 残すロボットの作業を、手でやる手順として1枚にする | 1本30分 | 止まった日に使う |
| よく止まるロボットは、目印の付け方の見直しを作った人に頼む | 依頼のみ | 現場の人が覚える必要はない |
| やめたロボットの作業が、取り込み機能で済まないか確かめる | 1本15分 | 別のRPAで作り直す前に |
よくある質問
RPAは中小企業では使えないのですか。
使えないわけではありません。毎日同じ手順で動き、止まったときに気づく人と直す人が決まっているロボットは、中小企業でも続きます。止まって使えなくなるのは、画面が変わったときに直す人がいないロボットです。会社の規模より、ロボット1本ごとの面倒を見る人がいるかで決まります。
RPAを使いこなせないのは、担当者のスキル不足ですか。
担当者一人のスキルの問題にしないほうがよいです。ロボットは画面が変わると止まる仕組みなので、どれだけ詳しい人が作っても止まることはあります。問題は、作った人しか直せず、その人の本業の外に手入れが置かれていることです。現場の全員がRPAに詳しくなる必要はありません。AIやツールに詳しくなる必要が無い理由は、AIを使いこなせない|詳しくなる必要はないに書きました。
止まってばかりのRPAは、やめてもいいですか。
やめてかまいません。止まるたびに手でやり直しているなら、ロボットがある分だけ確認の手間が増えています。やめる前に、そのロボットが何をしていたかを書き残し、その作業を手でやる手順を一つにしておいてください。やめたあとは、作業そのものが要るのか、取り込み機能で済まないかを先に確かめます。
RPAツールを別の製品に替えれば止まらなくなりますか。
画面を操作する以上、どの製品でも画面が変われば止まる可能性があります。製品を替える前に、止まったときに誰が気づき、誰が直すかを決めてください。それが決まらないまま替えても、同じ止まり方を繰り返します。
まとめ
RPAが使えないのは、ツールが悪いからでも、担当者の腕が足りないからでもありません。ロボットは画面の部品を目印に動くので、画面が変われば止まります。そして、作った人と止まって困る人が違うので、止まったロボットが直されないまま残ります。
まず、今あるロボットを1本ずつ書き出し、止まったときに誰が気づき、誰が直すかを確かめます。そのうえで、残す、直してから残す、やめる、に分けます。残すロボットには、目印を一つに頼らない作り方、止まったときの知らせ、手でやる手順を足します。
ロボットの本数は、何も意味しません。見るべきは、手でやる作業が何本減ったかです。
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